中小企業が強いブランド力を持つ経営中小企業が強いブランド力を持つ経営 [単行本]
著者:酒井光雄
出版:日本経営合理化協会出版局
(2011-12-12)

この1冊、発売当時(2011年12月)から知って自分の研究テーマ的にビンゴなタイトルで読んでおきたいとは思っていたですが、流石に15,000円もする本なので購入に躊躇していました。

ところが、今春より土曜日はお勉強の日と決め大学図書館に行ったところ新刊コーナーで発見しまして即借してきました。(大学図書館万歳ですね)

ということで、早速通読しましたので所感と自分の為に本書の要点を整理しておきたいと思います。

<通読後所感・戯言>
ブランド構築に為に自社の事業・商品・サービスについて3C視点で環境を整理のうえSTPを再定義して、4Pの整合性をしっかりとってマーケティングせよという極めて基本に忠実な考えに基づき、その具体的手法を事例を加え整理解説した内容です。

本書の著者はブレインゲイト株式会社の代表である酒井光雄氏。マーケティング関連の書籍も多く出されている経営コンサルタントです。コンサルタントの書かれたコンサルタント的な内容。企業経営者がブランド構築を考えるに際してのABCが読みやすい文章で企業事例とともに網羅的に整理解説されています。

内容は全て理論的にも正しいことばかりですのではあるのですが、裏付けとなるようなブランド理論のことや、一般化したフレームワークに関する記述は全く含まれていません。そういう意味で、経験や実績を体系的に整理しているコンサルタントによるコンサルタント的な本です。
※本書の目的や対象が違うのでしょうから、それがダメだと批判しているわけでは決してありません。理論やフレームワークに敢えて触れる必要がないというだけのこと。実務向けということで、アカデミック寄りの内容を期待を持って読んではいけないということです。

分厚い本ですが、そんなことでかなり短時間で通読できます。企業向けのブランド構築の為の良質なセミナーを聞いているような感覚です。それもあって思わずメモしたくなる納得感のある整理事項、使えるフレーズがとても多くあります。エッジを立てるために「中小企業」というキーワードを入れていますが、別に中小企業に限った内容ではなく、ブランドに関わる人であれば誰もが参考になると思います。

ということで、所感は以上として以降はメモ的な内容。囲いは本書からの直接引用。他も本書の見出し等の整理。※は感想、

<読書メモ・見出し整理>
ブランドとは「付加価値」であり、収益の源泉である。
有名になることと、真のブランドとの違いを理解できていない企業が多く、マスメディアを使って「名前」を売り、有名になればブランドになると考えている。だが、付加価値がないものは決してブランドにはならない。
今ほど日本の中小企業にとって「ブランド力」を持つことが容易な時代もないと感じている。それは、日本の市場が本当の意味で成熟期を迎え、製品の持つ一次的な価値のみならず、様々な付加価値に対してせいかつしゃが理解と愛着を示し、対価を支払う環境が整ってきているからだ。
生産性をあげることで収益を高めるには、商品の販売価格を維持できることが絶対条件
生産性をあげることは重要なことであるが、価値を高めたり魅力を高めたりすることとは本質的に違う。その本質は効率アップである。つまるところコストダウンであり低価格競争と同じということを理解しなくてはならない。
◆「つくる領域」における付加価値10の視点
1) プラスαの要素を加える
・あえて手間を掛け、その手間をアピールする
・地元の資源を有効に生かし、自社商品の魅力に変換する
・「ツマ」にこだわる
・自社のノウハウを、新たな事業分野で開花させる
・既製品をオンリーワンに変える
・必要悪を独自の魅力に変える
・需要よりも少なくつくり、売れ残りを出さない
2) こだわりを見える化する
→ 映像活用/産地/製造ライン/原材料/製造プロセス
3) デザインで抜きん出る
※中小製造業はココが特にネックですよね
4) すでにブランド力を備えた企業とコラボする
※この領域は自身の修論で整理したのでそのうちブログで紹介しようと思ってます。
5) 商品の「入れ物」にこだわる
6) 時間を付加価値に変える
7) まったく新たな値づけをする
8) 生活彩り品とギフト需要の両方を想定する
9) 人間の六感に訴えかける
10) 共感・共鳴する要素を打ち出す
◆「売る領域」における付加価値10の視点
  • 1) 経験や文化も併せて販売する
  • 2) 顧客側から連絡したくなる要素を組み込む
  • 3) 顧客接点にこだわる
  • 4) 世の中に話題を広げる販路で売る
  • 5) 絶えず独自の情報価値を組み込む
  • 6) 情報連鎖を働きかける
  • 7) 付加価値を得る仕組みを作って新たな販売体制で売る
  • 8) 徹底的に顧客の視点で対応し、他者を圧倒する魅力をつくりだす
  • 9) 継続購入してもらえる関係を確立する
    10) 買ってよかったと思ってもらえる魅力をつくる
※上記の通り本書では「つくる」と「売る」両面から10の視点で整理されていて、それぞれ実際の事例を上げながら解説されています。この分野に関わっている方であれば見出しだけで内容をある程度推測できてしまうのではないでしょうか。

※1〜10)を本書では「戦略的視点」としているのですが、戦略ではなく戦術そのものですよね・・・。著者もその点理解しているので「戦略的」としているのでしょうけれど。

※さておき、よくある実務家が書いたブランドに関するビジネス書の類は上記20の視点いずれかについて特に焦点を当てた内容がほとんどですが、本書は網羅的にバランスよく言及し解説しているという点で価値があると思います。

※ブランド力向上は経営そのものであり、どれか1つを実行すればブランド力がつくものでは当然無いので留意が必要です。そういうことで、企業がブランド力を強化したいという際に、上記計20の視点を徹底的に考え抜き計画を立て実行していけば良いということになるのですが、多くの中小企業の場合、人材・情報が不足からそれがナカナカできないでしょうから、本気ならば第三者に入ってもらう方が良いでしょうね。

最後に15,000円の価値があるか?という視点で本書を考えてみると評価が難しいところ。多くの人に読んでもらうにはちょっと高すぎますよね。実務向け内容としては素晴らしいと思うので3,500円くらいで良いのでは?とおもいますけど、出版流通の都合か著者のブランド戦略ですかね。

自分のブランドの教科書はコレです。数多くブランドに関する本を読んできましたが、本気でブランドについて勉強したいならこれ1冊を精読すれば十分とすら思っています。高いですけどその価値があります。

戦略的ブランド・マネジメント 第3版戦略的ブランド・マネジメント 第3版 [単行本]
著者:ケビン・レーン・ケラー
出版:東急エージェンシー
(2010-04-10)
 
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