4月11日にEテレで放映されたETV特集「緊急対談 パンデミックが変える世界〜海外の知性が語る展望〜」が非常に良い内容で、思わず2度見して、2度目はメモまでしてしまいました。

ユヴァル・ノア・ハラリ、イアン・ブレマー、ジャック・アタリの3名それぞれに、約20分ずつインタビューするとう番組でした。

番組を見ながら字幕をそのままメモしたところもありますが、要約したところもあります。書き起こしではなく、あくまで個人的な視聴メモ、備忘録ということで。(免責w)

■イアン・ブレマー(国際政治学者)

過去の危機(9.11、2008年金融危機) ではアメリカ中心に世界が団結したが、今回は各国がバラバラに危機を克服しようとし協調性がない。

リーダー不在、指導者なき世界、世界秩序が変化していく。
アメリカのリーダーシップなど、もはや存在しない。アメリカ国民すらも団結していない。

今回の危機は、過去の危機より深刻。

日本、アメリカ、ヨーロッパのような豊かな国は国内経済の停止状況に対応するだけの資力がある。
新興国や途上国は深刻な影響を受ける。そういった国から深刻な社会不安が広がり、暴力、体制の変更や崩壊、過激化(テロの温床となる)が広がる恐れがある。

グローバリゼーションの分裂。今回の危機で、分裂が加速する可能性。
米中の関係は悪化する可能性が高い。米中の相互依存が小さくなれば、危険は大きくなる。

環境問題、サイバーセキュリティ、AI・バイオテクノロジーの倫理問題などグローバルで対応が必要な問題への対応は継続的に必要であるが、今はそれがない。

不信感が募り、自分のことばかり考えている。民族主義、ポピュリズムがはびこっているため、グローバルな問題への対応が困難。

中国は国際社会に積極的な外交とプロパガンダを展開。今回の危機の責任を認めない。危機が収束したときに、中国の存在感は高まる。アメリカはリーダーシップという点では存在感ゼロ。

持つ者と持たざる者の格差は広がる。ハイテク企業の力が大きくなり、実店舗型の企業が倒産する。

<人々への提言>
犬を飼うべき。犬は良い、気が紛れるし、一緒にいると気持ちが落ち着く。朝、瞑想をするのも良い。
いつもと違うことをする必要がある。人間性を失ってはいけない。

今回の危機は、自宅にこもり、人間性が奪われている。人は社会的動物で、つながりが必要。スクリーン上ではかなわない。仮想現実では不可能。

個人レベルで対処する方法が必要。

「Gゼロ」後の世界―主導国なき時代の勝者はだれか
イアン・ブレマー
日本経済新聞出版社
2012-06-23


■ノア・ハラリ、イアン(歴史学者)

いま歴史の変化が加速する時代に突入しようとしている。2ヶ月から3ヶ月の間に、私たちは世界を根底から変える壮大な社会的・政治的実験を行うことになる。

コロナ危機で組織労働者の弱体化が進む危険。この緊急事態において、自由市場にだけ頼ることが出来ないのは誰の目にも明らか。一部の国は、経済システムと雇用市場をより良いものに作り変えるいい機会になりえる。

政治的選択となることが数多くあることを理解する必要性。事前に決まっていることはなく、決断をウイルスがするわけでもない。それは政治家の仕事であり、監視するのが市民の仕事。

メディアと一般の人たちは、ウイルスの流行にだけ関心を持つべきではない。「今日は感染者が何人だった」とか「病院に何代の人口呼吸器がある」といった話しは重要ではあるが、政治状況にも焦点を当てるべき。

全体主義的な体制が台頭する危険がある。民主国家の政権が独裁的権力を手に入れる(例:ハンガリー)。他の国も同様の傾向があり、非常に危険。コロナウイルスと闘うという口実の独裁制。

独裁者は効率が良い迅速に行動できる。誰とも相談する必要がないから。しかし、間違いを犯しても決して認めない。間違いを隠蔽する。メディアをコントロールしているから隠蔽が簡単。他の手法を試すのではなく間違いを積み重ねる。責任は他の人に転嫁する。権力を強化し間違いを積み重ねる。

民主主義の大切なのは政府が間違いを犯したときに自らそれを正すこと。政府が間違いを正そうとしないときに政府を抑制する力を持つ別の権力が存在すること。

緊急措置が適用されるのは危機の間だけで、危機が去ればいつも通りに戻ると思いがちであるが、それは幻想。

緊急時だからこそ民主主義が必要。通常、民主主義は平時には崩壊しない。崩壊するのは決まって緊急事態のとき。政府がもつ情報にアクセスする権利を有すること、監視する力が市民が持つべき力。

コロナ対策のために監視することは支持するが、相互監視が前提。全体主義的な監視は支持できない。政府が国民の監視をするだけでなく、国民が政府を監視する側面が必要。

信頼してもらう、信頼を回復させるためには、「科学と研究機関への信頼」が重要。

ここ数年、ポピュリズムを奉じ責任感に欠ける政治家たちが世界中に登場した。そして、意図的に人々の科学や大学、研究機関への信頼をおとしめようとしてきた。科学者を貶める、荒唐無稽な陰謀論を拡散した者もいる。ワクチン接種に反対したり、地球は平面だと主張したりする人。

この緊急事態に権威ある科学者への信頼を覆すことがどれだけ危険かはっきりした。

このような状況では市民にも多くの責任が生じる。

1つは、情報や行動のレベル。
信ずるべき情報を吟味し科学に基づいた情報を信頼すること。そして科学的な裏付けのあるガイドラインを実行すること。

市民が科学的な指針に従えば、緊急時に独裁的な手法をとる必要性が少なくなる。

私たち一人一人の努めは、現在の状況や誰を信じるべきかについて知識をつけ、信頼に足る組織から出された指針を忠実に守り、陰謀論のわなに陥らないこと。

2つ目は政治状況に目を光らせておくこと。
いまこの瞬間にも極めて重要な政治決定が行われている。決定に参加し、政治家を監視しておくことが大切。

<人々への提言>

人類はこのパンデミックを乗り切ることができる。

今回の危機が、究極的に何をもたらすのかはあらかじめ決まっていない。それは私たちにかかっている。結末を選ぶのは私たち。

グローバルな連帯や民主的で責任ある態度を選び科学を信じる道を選択すれば、死者や苦しむ人が出たとしても、あとになって振り返れば人類にとって悪くない時期だったと思えるはず。

憎悪や幻想・妄想を克服した時期として、真実を信頼した時期として。以前より強く団結した種になれた時期として位置づけられるはず。

サピエンス全史 上下合本版 文明の構造と人類の幸福
ユヴァル・ノア・ハラリ
河出書房新社
2016-09-16



■ジャック・アタリ(経済学者・思想家)

1929年(大恐慌)以降、最悪の危機に陥っている。2008年と比べても遥かに深刻。世界GDPの20%が失われるかもしれない。ほとんど備えなしに、この危機的事態に突入していることが関係している。

政府、中央銀行は様々な支援がされていくはずだが、それは結果を先延ばしにしているに過ぎない。レストラン、ホテル、店舗、スタジアムや航空業界など人が集まることが予想される業種は、とても大きな影響、10%などではなく、60%あるいはそれ以上の影響を受ける。

最悪のシナリオは、世界的な恐慌、失業、インフレ、ポピュリストによる政権の誕生、そして長期不況による暗黒時代の到来。新しいテクノロジーを使って国民の管理を強める独裁主義の増加。

安全か自由かという選択肢があれば人は必ず自由ではなく安全を選ぶ。それは強い政府が必要とされることを意味するが、強い政府と民主主義は両立する。

連帯のルールが破られる危険性が極めて高い。つまり利己主義。経済的な孤立主義が高まる危険もある。

他の国に依存しすぎるべきではないというのは一面の事実。だからといって国境を閉ざしてしまうべきではない。バランスの取れた連帯が必要。

パンデミックという深刻な危機に直面した今こそ「他者のために生きる」という人間の本質に立ち返らればならない。

協力は競争よりも価値があり、人類は一つであることを理解すべき。利他主義という理想への転換こそが人類のサバイバルの鍵である。

ポジティビズムはオプティミズムとは異なる。

自分たちの安全おために最善を尽くし、世界規模で経済を変革させていくことができれば、きっと勝てる。

ポジティブ経済:長期的な視野にたち「命の産業」、生きるために必要な、食料・医療・教育・文化・情報・研究・イノベーション・デジタルなどの産業に重点を置く経済。

生きるのに本当に必要なものに集中することが必要。
利他主義は、合理的利己主義。利他主義とは最も合理的で自己中心的な行動。

<人々への提言>

良い方向に進むためには今の状況をうまく生かすしっかない。利他的な経済や社会(「ポジティブな社会」「共感のサービス」と呼ぶ方向)に向かうことを期待。

人類は未来について考える力がとても乏しく、また忘れっぽくもある。問題を引き起こしている物事を忘れてしまうことも多い。過去の負の遺産を嫌うため、それが取り除かれるとこれまで通りの生活にもどってしまう。人類が今、そのような弱さを持たないよう願っている。

私たち全員が次の世代の利益を大切にする必要がある、それが鍵。次世代の利益となるような行動を取ることができれば、それが希望となる。

新世界秩序
ジャック・アタリ
作品社
2018-06-30






4月15日(水)24時から再放送もあるらしいですが、NHKオンデマンドやらNHK+でいつでも見れます。



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