ルディー先生の著書はこの本で2冊目。前回の「売り方は類人猿が知っている」の読書記録を確認してみたら1年前でした。先生自らがつけたのか、編集者がつけたかは知りませんが、今回もタイトルにセンスありすぎ。
ソクラテスはネットの「無料」に抗議する (日経プレミアシリーズ)ソクラテスはネットの「無料」に抗議する (日経プレミアシリーズ) [新書]
著者:ルディー 和子
出版: 日本経済新聞出版社
(2013-02-16)

 



 新書でさっくり読める量ですが、内容は骨太です。全ての論において裏付けがしっかりしていて読んでいて気持ち悪さは一切ありません。いつか本を書く時のお手本にしたい本です。んで、この本は「人間の本質はギリシャ時代から変わってないんだよ」ということをソクラテスの時代と現代を対比しながら考察している本です。「人間は昔から変わらない」という主張は「売り方は猿人類が知っている」と同じですね。

 いつものように、書評を書く力は無いので、気に入った部分をいくつかメモとして残しておきます。
 
■古代から現代に続く「贈与の法則」

 贈与論 (ちくま学芸文庫)贈与論 (ちくま学芸文庫) [文庫]
著者:マルセル モース
出版: 筑摩書房
(2009-02)
 




『贈りものは、1)与える義務があるし、2)ウケる義務があるし、3)お返しする義務があるのです。人間がこういった3つの義務を遂行している限り、暴力による争いの代わりに平和を維持することができる。これは人間が社会生活を始めるようになってから獲得した1つの知恵なのです。』

■ネット上の「無料(フリー)」のウソ


1)無料の商品やサービスが有料のサービスや商品によってカバーされるもの。
  ⇒ 無料で捕まえてから、その後課金する系のサービス。Dropboxや高額請求で問題になるソーシャルゲームなんかがそれ。 
2)真に誰でも無料。
  ⇒ Wikipediaが代表例。個人・法人の寄付により成立している。ただし、個人の寄付では賄い切れない規模になり、企業による大口寄付により維持している現実。
3)三者間市場
  ⇒ GoogleやFacebookなんかがこれ。無料で使えるのは、企業の広告費があるから。

 このお話が出てから、3)三者間市場に焦点を当てた話になります。GoogleやFacebookが贈与の法則を破壊したという論の展開となります。GoogleやFacebookなどはサービスを使う対価として個人データの提供を求めているのです。これに対して「無料サービスは使うが、個人データは提供しない」ということになると破綻するという内容です。これには大いに納得させられました。

 ただし現状の問題点もあげています。個人データが通貨と等しい扱いとなっていて、それが売買、贈与交換であろうと利用者が企業にそれを渡していることに気づいていないという点です。

■人間は生まれつきうそをつくようにできている。
■ソーシャルメディアの詐欺師と世界最古の詐欺師の手法は同じ

■人間の8割は楽観主義者、そして楽観主義者は生存率が高い
■確証バイアスにとらわれる人ほど議論に強い

■1つの作業を一気に片付けないと、1.5倍の時間がかかる。

『マルチタスキングというと、感覚的になんとなく効率が良いように思えます。イメージ的にも、仕事を手早く済ませる、やり手のビジネスマンっぽいかっこ良さがあります。が、過去20年間、心理学者や神経学者が行なってきた様々な実験や調査では、私たちは同時に2つ以上のタスクをこなすことは得意ではなく、成果も時間も劣る結果となっています。』
※マルチタスキング能力を上げるためにはワーキングメモリーの容量をあげる訓練をする。

■脳は「新しい情報」の誘惑に抵抗できない。
 
■仕事中のメールは、ドラッグよりも2倍もIQを下げる。

 ⇒ 情報中毒になる原因。メールやTwitter、Facebookの投稿を常にチェックしていないと気が済まない状態に人間は陥りやすい。そうなると、つまりマルチタスク状態になり、生産性は必然的に落ちるということです。 
『私たちは、結局のところ、古代ギリシアの知識人と比べて、なんら発展も進化していないのです。ソクラテスが生きていた時代に無かったコンピュータやインターネットといったモノが存在するのは、交換によって分業化と専門化が進み、その知識やノウハウが2,500年積み重なった結果です、、人間一人ひとりの頭脳や知性が昔に比べて良くなったからというわけではないのです。』
と、こんなところで。
以下は、本の参考文献になっていて読もうと思ったものたち。

繁栄――明日を切り拓くための人類10万年史(上)繁栄――明日を切り拓くための人類10万年史(上) [単行本]
著者:マット・リドレー
出版: 早川書房
(2010-10-22)
 




贈与の歴史学  儀礼と経済のあいだ (中公新書)贈与の歴史学 儀礼と経済のあいだ (中公新書) [新書]
著者:桜井 英治
出版: 中央公論新社
(2011-11-24)  





ネット・バカ インターネットがわたしたちの脳にしていることネット・バカ インターネットがわたしたちの脳にしていること [単行本]
著者:ニコラス・G・カー
出版: 青土社
(2010-07-23)