お仕事の一環で学習塾業界、特に個別指導塾業界に関する考察していたのですが、業界を俯瞰していたら「コモディティ化」の切り口で整理してみたら意外としっくりきたので、その部分だけ一部メモとして晒しておこうかと。

【基礎情報1】「コモディティ化」とは
ある商品カテゴリにおいて、競争商品間の差別化特性(機能、品質、ブランド力など)が失われ、主に価格あるいは量を判断基準に売買が行われるようになること。
 
【基礎情報2】「コモディティ化した市場で生じる現象」
1) 価格競争の激化
2) 大手企業による寡占化進行
3) 新興企業の台頭

【基礎情報2】を受けて「学習塾市場の現状」確認
1) 価格競争の激化してる?

 ⇒ 確実に激化してきています。(実際のところ「チラシ上で安く見せている」だけというのも多いですけどね。)
2) 大手企業による寡占化進行してる?
 ⇒ 進行してます。市場規模は横ばいの中、上場企業19社(調査時点、今は17社)の売上合計は伸び続けてます。生き残りをかけた熾烈なM&Aで売上伸ばしてます。寡占化進行しているとはいっても、学習塾市場における上場企業の売上比率は約2割で、まだまだ中小零細個人がひしめく市場であることは変わりないですけど。
3) 新興企業の台頭してる?
 ⇒ 学習塾フランチャイズチェーンの数は2001年以降右肩上がり。その他の新しいタイプの塾チェーンも見られます。新興企業の多くは「低価格」を全面に勝負し一定の支持を得ています。

ということで、コモディティ化した市場で生じる現象、いずれもバッチリ当てはまったりします。ということであるならば、今後の学習塾経営におけるキーワードは「脱コモディティ化」と言えそうです。その為には、コモディティ化する原因をまず確認。

【基礎情報3】「コモディティ化」の原因
1) モジュラー化
2) 中間財の市場化
3) 顧客価値の頭打ち

さて、この「コモディティ化の原因」を学習塾業界に当てはめてみると、モジュラー化はすなわち「FCパッケージ化」、中間財の市場化は「教材・教務システム市場」とすることができるでしょう。この2つについてはもう如何様にもしがたいですね。となると、原因で注視すべきは「顧客価値の頭打ち」となるでしょう。

【基礎情報4】「顧客価値の頭打ち」の背景にあるもの
顧客側における商品・サービスに対する
 1) 低関与化
 2) 知識・弁別力の低下 

この背景を元に考察してみると、個別指導塾に対して消費者の低関与化、知識・弁別力が低下している、つまり平たく言うと消費者が「個別指導塾はどこも大差ない。」という考えていると考えることができます。特にフランチャイズ型の個別指導塾においてそれは顕著ではないでしょうか。

業界にいる方においては否定したくなることかとは思いますが、業界全体を俯瞰してみると「個別指導塾は結局どこも一緒」と認識されていることは否定できません。これを否定するのは、断末魔が聞こえる日本電機メーカーと一緒。

すなわち、消費者にしてみれば「全く使わなそうな機能」をごちゃごちゃつけてメーカーは一生懸命に新しいテレビを売ろうとしますが、消費者サイドにしてみれば「どれも結局大差ない」と思うわけです。消費者がそう思っていても、メーカーサイドは「うちの商品は他社より優れている、大きな差がある」「薄型テレビはどれも大差ないなんてことは無い!」と考えているわけで結局それと似たりということです。

さて、本題に話を戻りまして、「業界考察」なので「個別指導塾はコモディティ化している」という考察はここまでなのですが、少し対策についても考えてみようかと。

ということで個別指導塾の「脱コモディティ化」には「消費者の低関与化/知識・弁別力の低下に対応」すれば良いということです。

原因と対策がわかればあとは施策。施策はつまるところ、消費者を塾に対して高関与化させればよく、知識・弁別力を高めれば良いということになります。つまり差別化するってことなのですが、業態やプランなどはイノベーションレベルで差別化されないかぎり、多少変えた所で焼け石の水です。となると対策は「消費者とのコミュニケーション」しかないのです。

ま、なんともクドイ説明になりましたが、実はこれって個別指導塾として「あたりまえ」のことを「あたりまえ」にやっていれば実現できてしまうことでもあるんですよね。それに加えて上記の実態を認識し意図を持ったコミュニケーションを生徒・保護者と取っていけばテッパンということですね。

これがセミナーなら、ここから具体的な事例・施策という流れになるところですが、業界考察なので、これでおしまい。ただ言えるのは、いわゆる成功している個別指導塾っていうのは意識しているかしていないかはさておき、「消費者の低関与化/知識・弁別力の低下に対してコミュニケーションで対応」しているんですよね。

私の本棚にあるコモディティに関する教科書は下記2冊。(アカデミックな本なのでご留意ください)

コモディティ化市場のマーケティング論理コモディティ化市場のマーケティング論理
著者:恩蔵 直人
販売元:有斐閣
(2007-07-02)
販売元:Amazon.co.jp
 
価値共創時代のブランド戦略―脱コモディティ化への挑戦価値共創時代のブランド戦略―脱コモディティ化への挑戦
著者:青木 幸弘
販売元:ミネルヴァ書房
(2011-04)
販売元:Amazon.co.jp