先日、就職難による大学生の自殺者増加という、疑いたくなるようなニュースが話題となりましたよね。

<自殺>就活難航で大学生の自殺者が倍増 10年警察庁統計

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110303-00000031-mai-soci


そんなニュースが出た翌日、偶然にも2011年3月卒業者向け採用合同説明会に参加し、

「なるほど、この状況なら確かに就活難による自殺者が出るかもしれない」

と思わされる出来ごとがあり、同時に新卒採用に携わる企業の責任について考えさせられたので書いてみようと思います。

参加した合同説明会には、未だ進路が決まらない4年生中心に来場。
参加は約30社。内訳は専門学校、就職支援会社が10社程度、残り全て中堅中小企業。

開催時間は13時から17時まで。

そんな説明会
開始早々、就職先が決まっていない都内某私大4年生のA君が小生のブースに来てくれました。一番最初に私のところに来てくれたそうです。

そんなA君、口下手で、不器用、若干鈍そうでもあり、見た目も決して良いと言えないのですが、愚直で真面目な側面は少し話をしてみれば判りました。

しかし、採用候補となりえるかといえば、それはNOであり、おそらく多くの企業においても同様と思われるような、そんなA君でした。

この時期に内定が取れていない学生に共通するのが、就活というゲームを攻略するための情報やスキル、テクニックが絶対的に欠けているということ。

自分は、採用で出会う学生に対し、一期一会、何かの縁だと思い、「この企業の話が聞けて良かった」と思ってもらえるよう、会社の話だけでなく、就活の苦労を少しでも楽にしてあげられるような、そして、少しでも就活が好転するようなきっかけになる話をするよう努めています。
 
20分程度の話を終え、前向きな気持ちで私のブースを後にしたかに見えたA君と、人もまばらとなった合同説明会終了間際にまた会うことになったのです。


たまたま、私のブースの前を通り過ぎたA君、 明らかに雰囲気がおかしい。
真っ黒のオーラを全身から発しているのです。


思わず声をかけました。「その後、どうだった?」と。
すると、今にも泣き出しそうな表情でこう言うのです。

「自分は本当に存在価値の無い、ダメな人間なんだと痛感させられました」
 

と。

「オイオイオイオイ、大丈夫かA君!」と思うと共に、冒頭に記載した昨日の大学生の自殺のニュースが頭をよぎったのです。
引き止め、もう一度、ブースに座らせて話を聴くことにしました。 

「どうした?何があった?」と聞いてみると、A君が言うところはこうでした。 

話を聞く会社からは、どこからも「夢や目標を持て!」「夢や目標が大事だ」ということばかり言われた。

「夢や目標は?」と聞かれても自分は、学生を終えたら、社会に出て働くことが何より大切なことであり、お金を稼ぎ、家族を養いたいという思いで就活をしてきたので、話せるような夢や目標は無い。

話を聞いた企業からは「夢や目標を持てないようではダメだ」と言われ、夢や目標を持っていない自分は、必要とされないダメな人間と思わざるを得なかった。

とまぁ、こんな主旨、相当つらかったのか、耐え切れず涙をボロボロ流しながら話をするのです。


実際に他の企業がどのようにA君に接し、どのような話をしたのかは判りませんが、いずれにせよA君をこんな気持ちにさせて帰らせてしまう企業の採用担当者がいることに疑問を感じずにはいられないのです。

この時期、2011年新卒採用をする企業は、一本釣りの傾向が強く、最初である程度判断をします。

確かに、A君は今、採用活動をする企業が積極的に採用を考えるようなタイプの人間ではありません。 
 
でもですよ、A君をこんな状態にして帰らせるような企業の採用担当って如何なもんなんでしょうか?

「夢?目標?」 企業はA君のようなタイプに、それを聞いてどうするの?
体裁のみ真っ当な話をしているつもりで、何も分かっちゃ無いんじゃないの?

彼は「社会に出て家族のためにお金を稼ぎたい。」という立派な目標があるじゃないですか。

「社会に出て働きお金を稼ぎ家族を養うこと」、

戯言に近い夢や目標を語るよりも、まずもって大切なことだと思うのです。

それが、まず第一義に出てくるA君は素晴らしいと思うのです。 

働く理由は人それぞれ。
将来の夢や目標はあればあったで良い。無くても大きな問題ではない。

ひとしきりA君の話を聞いたうえで、
自分は、A君に対して、「社会に出て働くこと、家族を養えるようになること」と考えているならば、それは十分立派な目標であり、夢だから自信を持つように。

そして、この時期から今後の就活をどのように進めるべきか、万が一の時の4月以降のリスクヘッジについてアドバイスしました。

A君は気持ちを持ち直した様子で会場をあとにしました。


A君の姿が見えなくなると、自分の近くにブースを構えていた某専門学校のキャリア担当の方が、挨拶にこられました。

「話が聞こえてきてので、内容伺っていたのですが、とても参考になりました、ありがとうございました」
「A君は自分のところにも足を運んでくれたのですが、あまりの落ち込みようで、対応苦慮していたのです。」

と言ってくれたのでした。

心配したなら、その場で何かしてあげてよ!

と思ったりもしたのですが、
いずれにせよ自分がしたことは、間違ったことではなかったかなと。

とりとめのない体験談になりましたが、

現在の新卒採用というシステムや、それに翻弄され苦労する学生たちのこと、日本の中小企業の採用のこと、

A君との出会いにより、考えさせられる出来事でした。 

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